遺跡発掘-埋もれた歴史に挑む-

小 澤 太 郎

作品タイトル

多くの市民が参加した前畑遺跡の現地説明会(福岡県筑紫野市)

 「遺跡の発掘調査」と聞いて、どんな光景が思い浮かぶでしょうか?今回は、その手順と考古学の魅力についてご紹介しましょう。

 発掘は、掘ること、記録することの2つの作業から成り立っています。遺跡の性格や自治体・担当者等で多少の違いはありますが、主に以下のような作業を行います。

 ① ショベルカーで遺跡が見つかる深さまで表面の土を除去します。
 ② これ以降は、人力での作業が中心となります。まず、大きな草取り鎌を使って表面の土をきれいに削ります。裸足で歩きたくなるくらい平らに削るわけです。かなりの力と技術の必要な作業です。
 ③ 土の質や色の違いで、古代の人たちが生活した痕跡(遺構)を探し出します。遺構の土は、黒っぽく汚れています。これは、人間や植物が汚した土なのです。
 ④ 移植ゴテや竹べらを使って遺構を掘り下げていきます。注意力と根気のいる作業を経て、竪穴住居やゴミ捨て穴、古墳等がよみがえるわけです。同時に土器や石器などさまざまな道具類(遺物)が出土します。ちなみに、発掘期間中に雨が降ると、溜まった水をポンプやバケツリレーでくみ出します。また、炎天下でのスコップ作業も多く、これらは、重労働で辛い作業です。
 ⑤ それぞれの遺構の写真を撮ります。調査区全体の写真は、気球やラジコンヘリ等で撮影します。
 ⑥ 重要な遺構や遺物の出土状態の精密な平面図や断面図をつくります。遺跡全体の図面もとります。
 ⑦ 現地説明会等を開催して一般の皆さんに遺跡を公開します。

 以上のように、発掘調査には季節も関係ありません。たとえ灼熱の太陽の下でも、今向かい合う土のすぐ下に何が眠っているのか、高まる期待感で暑さを忘れてしまいます。

 例えば、溝から壺が発見されたとします。なぜここにあるのか。何を入れる器だったのか。考えながら掘り、掘りながら考え、よく観察し、記録をとっていきます。

 このようにして得られた様々な状況証拠から、古代の人たちの生活や行動を探っていくところは、推理小説にも通じる謎解きの魅力があります。

 発掘調査による埋もれた過去の世界の復元作業。その地道な積み重ねが、いまだ知られなかった歴史の解明につながっていくのだと思います。

 考古学ブームといわれる昨今、佐賀県吉野ケ里遺跡や青森県三内丸山遺跡を訪れる人々は、あとを絶ちません。考古学は、一般の人々も自由に参加でき、学問的雰囲気と「夢とロマン」を味わえる楽しみを合わせ持つイベントなのです。

 発掘調査で出土した遺構や遺物は「文化財保護法」で定められた国民の財産(文化財)でもあります。行政や考古学者の独占物ではありません。法律的に見ても、皆さんひとりひとりに、それを楽しむ権利があるのです。

 さあ、皆さんも古代の世界に思いを馳せてみませんか。

*「広報ひろかわ」2000年8月号、広川町役場より〔編集部より挿入部分割愛、写真差し替え〕。

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